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演劇におけるサブソニックライティングとは?

舞台・演劇の分野におけるサブソニックライティング(さぶそにっくらいてぃんぐ、Subsonic Lighting、Eclairage subsonique)は、音波の可聴域以下、すなわち20Hz未満の「超低周波音(サブソニック)」の動きやパルスに連動させて照明を制御する、舞台演出上の高度な照明技法の一つです。この手法は、音と光の相互作用に着目し、観客の「感じる」領域への訴求を目指した演出として近年注目を集めています。

サブソニックライティングは、通常の視覚的・聴覚的感覚に直接働きかけるのではなく、身体内部への振動や心理的暗示を伴う演出効果として使用されます。特に、重低音のパルスに合わせて光の強弱・色彩・点滅をコントロールすることで、視覚ではなく身体感覚や無意識への訴求という新たな演出領域を創出します。

これは、照明デザインにおいて従来の「視覚的演出」の枠を超え、音響技術と照明技術の融合によって成立するメディア演出として位置づけられます。ダンスパフォーマンス、現代演劇、メディアアートなどの分野での応用が進んでおり、観客に「見せる」ではなく「感じさせる」ライティングの一形態といえるでしょう。

英語では 'Subsonic Lighting'、仏語では 'Eclairage subsonique' と表記され、特に舞台演出においては技術的文脈よりも身体性・感覚的没入感に焦点を当てた概念として認知されつつあります。



サブソニックライティングの背景と技術的成立

サブソニックライティングの着想は、音響心理学や感覚生理学、サウンドアートの研究に基づいており、特に1960年代以降のミニマル音楽やサウンドインスタレーションの中で発展してきた「低周波振動の演出効果」がその基礎にあります。

音波は、周波数によって人間の知覚に対する影響が大きく異なります。20Hz未満の「サブソニック音」は耳で聴くことは困難ですが、身体で“感じ取る”音として知られており、その振動が精神状態や情動反応に強く作用することが報告されています。

これに照明制御を組み合わせることで、視覚・聴覚・触覚の境界を曖昧にする演出が可能となります。たとえば、舞台上で光が「見える」前に「感じる」ことで、観客は無意識に緊張感や違和感、あるいは期待を覚えるのです。

具体的には、DMX制御やMIDI信号といったデジタル通信プロトコルを利用し、サブソニック音源とライティングシステムを連動させることで、時間軸上で極めて繊細なライティング効果が演出されます。これには、高精度の音響解析と、対応する照明機材の応答性能が求められます。



演出上の効果と使用事例

サブソニックライティングの最大の特徴は「感覚領域を拡張する照明演出」である点です。それは単なる視覚的インパクトではなく、「感じさせる光」への進化であり、観客の没入体験を大きく変える可能性を秘めています。

以下に主な使用目的と演出効果を列挙します:

  • 不安感・緊張感の構築:低周波による無意識的な緊張と、点滅や明滅する光が組み合わさることで、観客に心理的な圧迫感を与える。
  • 神秘性や超現実感の演出:光がゆっくりと鼓動のように脈打つことで、現実と幻想の境界を曖昧にする演出を可能にする。
  • ダンスとの統合:音楽の低周波リズムに合わせて、身体と共鳴するライティングで、観客とパフォーマーの一体感を増幅させる。
  • 都市型劇場やクラブ空間での演出:大型ウーファーと照明装置の連携により、視覚と聴覚の相乗的な演出を実現。

たとえば、現代舞台作品においては、登場人物の内面世界や過去の記憶を表現するシーンにおいて、通常の音楽とは異なる「震える空気」のような低音と、それに共鳴する揺らぐ光が組み合わされ、観客は情報ではなく感覚としてそのシーンを体験します。

また、パフォーマンスアートやインスタレーション系の演出においても、「静かで暗い空間」における微細な光とサブソニックの連携は、極めて個人的で没入的な体験をもたらすため、国内外のフェスティバルや実験的な劇場空間での導入が進んでいます。



今後の可能性と課題

現代演劇において、サブソニックライティングは単なる技術の域を超え、舞台芸術における「感覚の再構築」を担う重要な試みとされています。

特に以下のような未来的展望が期待されています:

  • センサー連動型演出:観客の心拍・呼吸・動きなどに連動したサブソニック照明演出の自動生成。
  • ウェアラブル照明技術との融合:俳優の衣装や身体に装着された照明が、内蔵振動に応じて発光する。
  • VR・AR劇場との融合:視覚と聴覚が分離された空間で、身体感覚として光を「感じさせる」新たな演出空間。

一方で、課題も存在します。主なものは以下の通りです:

  • 機材コストとシステム整備:超低周波音を扱う音響設備と高性能な照明制御システムにはコストと技術的対応力が求められます。
  • 観客への身体的影響:特に敏感な観客に対しては、過度の低周波刺激が不快感や体調不良を引き起こす可能性もあるため、安全設計が必須です。
  • 演出意図との整合性:効果に頼りすぎると、演出の核がぼやける恐れがあるため、作品との有機的統合が求められます。

しかしながら、これらの課題を乗り越えた先には、照明という枠を超えた新たな身体演出メディアとしてのサブソニックライティングの可能性が広がっています。



まとめ

サブソニックライティングとは、可聴域外の超低周波音に連動した照明制御により、観客の身体感覚や心理状態に働きかける舞台照明の新たな表現技法です。

その演出効果は視覚的に魅せるという枠を超え、「感じさせる光」=感覚共鳴型照明演出として、今後の舞台芸術に革新をもたらす重要なキーワードとなるでしょう。

テクノロジーの進化と演出思想の深化が交差するこの分野で、サブソニックライティングは、舞台空間を五感で体験する時代への扉を開く可能性を秘めています。

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